潰瘍性大腸炎では、症状が悪化しすぎた場合や生活の質が著しく低下している場合、大腸の全摘手術を行うことがあります。
大腸をすべて摘出するわけですから、日常生活に全く影響がないわけではありません。
しかし、そのメリットは大きく、様々なストレスや症状から解放されます。
今回は大腸全摘手術のメリット・デメリットについてまとめてみたいと思います。
大腸全摘手術はどのような場合に行うのか?
大腸全摘手術はどういった場合に行われるのでしょうか? 手術となるケースは大きく3つに分けられます。
1.症状の悪化・重篤な合併症が見つかった場合
まず、症状の悪化や重篤な合併症が見つかった場合は緊急に手術をする必要性が高いです。緊急性がある場合は次の6つです。
- 劇症や重症(2週間以上内科治療で改善の見込みがない)
- 癌が見つかった、または癌化した
- 穿孔(せんこう:大腸に穴があいてしまうこと)
- 大出血がある
- 中毒性巨大結腸症(大腸が直径6cm以上に腫れあがり毒素が全身に回る症状)
以上の場合はほぼ例外なく手術をする必要があります。
2.ステロイドの合計使用量が多くなった場合
ステロイドの合計使用量が多くなりすぎてしまった場合も手術を検討する必要があります。
「これまでの合計が10,000mgに達したら手術」という目安もあるみたいですが、これに関しては医師によっても方針が違ってくるようです。中には30,000〜40,000mg使用している人もいるようですし、10,000mg以下で手術に踏み切る場合もありますので、自身の症状と生活、そして医師と相談しながら決断していくことが大切です。
2.生活の質(QOL)が著しく低下している場合
他には自身の生活の質(QOL)が著しく低下している時も手術を検討しなければいけない場合があります。
- 週退院を頻繁に繰り返している
- 半年以上寛解できない
- トイレの回数が1日数十回に及ぶ
- 治療による副作用が出ている(骨粗鬆症・大腿骨頭壊死・白内障・緑内障・難聴・ステロイド筋症・ステロイド神経症・鬱・その他)
- 妊娠や就職などで症状を改善する必要がある
以上のような場合には手術を検討しなければいけなくなる可能性がでてきますので、自身のこれからの人生を見越して上で十分に検討して決断していくことが大切です。
大腸全摘手術の5つのメリット
手術をすることによってもちろん病状は回復しますので、様々なメリットを得ることもできます。
激しい腹痛がなくなる
炎症を起こしていた大腸を摘出するわけですので、これまで悩まされていた腹痛から解放されることになります。
患者のQOLが改善される
入退院の繰り返しや1日にトイレに何十回も行くことがなくなるため、患者のQOLが改善されます。通学・通勤も通常通り行うこともできますし、スポーツに励むことも可能となります。
食事制限がなくなる
これまで厳しい食事制限をしていたと思いますが、術後症状が安定すれば食事の制限は軽めになることがほとんどです。
プレドニン(ステロイド)の副作用から解放される
もう炎症を抑えるためにプレドニンを摂取する必要はなくなるため、副作用から解放されることとなります。
大腸ガンのリスクがなくなる
大腸を残す場合は別ですが、大腸をすべて摘出するためガンのリスクはかなり軽減されます。
大腸全摘手術のデメリットは?
では、大腸全摘出のデメリットは何があるのでしょうか?
トイレの回数が多くなる
一つ目は、トイレの回数が多くなることが挙げられます。
手術直後はトイレの回数も安定しないですが、時間の経過とともに5〜8回ほどに落ち着きます。
軟便になる
大腸がなくなることで便の溜めて置く場所がなくなりますので、軟便になってしまうこともデメリットです。
大腸全摘手術の4つの方法
手術の方法はひとつだけではありません。主な手術方法は4つあります。
手術方法については大阪市立大学医学部附属病院が文献を公開していた。今回はこれを参考文献としながら紹介してみたいと思います。
1.大腸全摘出術:永久回腸人工肛門造設術
大腸全摘後の方法として、腹壁に回腸の人工肛門をつくる方法。この術式の最大の欠点は永久的人工肛門となることです。現在、この術式が適応されるのは、肛門の機能が非常に悪く自然肛門が残せない場合と、直腸に進行した癌のある場合のみとなっています。
引用:http://www.med.osaka-cu.ac.jp/surgical-oncology/img/kaiyouseidaicyou2.pdf
この方法は大腸〜肛門を全摘出して、小腸の先端を人工肛門として使っていく方法です。
人工肛門とは?
そもそも人工肛門のことをご存知ない方もいらっしゃると思いますので、少し説明します。
人工肛門は本来のお尻部分ではなく、お腹部分(へその横あたり)に作られるのが一般的です。大腸全摘手術の場合はそこから小腸の先端を出し、そこから排泄を行えるようにします。
人工肛門になると、括約筋がなくなるため便を我慢したりだとかの排泄をコントロールすることができなくなるため、便をためておくパウチ(袋)を装着することになります。
溜まった便はいつも通りトイレに流すだけで大丈夫です。またパウチは防臭や耐水にも優れているため、臭いが漏れたり汚れたりする心配もありません。
②全結腸切除・直腸粘膜切除・回腸肛門吻合術
全結腸切除後、直腸粘膜を切除し、回腸と肛門を吻合します。病変部がほぼ全て切除されるため、根治性の高い手術法です。しかし、手術を安全に行うために、通常2回(2期分割手術)または3回(3期分割手術)に分けて手術を行います。
引用:http://www.med.osaka-cu.ac.jp/surgical-oncology/img/kaiyouseidaicyou2.pdf
この方法では直腸や肛門を残すことができるため、一時的に人工肛門になるものの、最終的には自身の肛門から排泄することが可能となります。基本的には緊急手術でない場合は2回で手術は終了です。
メリットは先の永久回腸人工肛門造設術と違い、自身の肛門を残すことができるためそこから排泄をすることが可能なことです。
デメリットは排便の回数が1日概ね5〜6回と通常よりも多くなってしまうことになります。
1回目の手術で行うことは以下の通りです。
- 大腸の全摘出
- 小腸の末端を折り曲げて作った便をためる袋(回腸嚢)と肛門をつなぐ
- 口側の小腸で人工肛門を作る
人工肛門を作る理由は、回腸嚢と肛門の吻合部分は縫いたての段階では脆く安静させる必要があるため、まずは別の部分から排泄する必要があるからです。
2回目の手術で、人工肛門を閉じることになります。
ここまでかかる期間はだいたい3〜6ヶ月程度です。
すべての手術が終われば、いつも通り自身の肛門から排泄することが可能となります。
③大腸亜全摘出術 回腸肛門管吻合
近年、我が国でも直腸粘膜を約 2cm 残して肛門管と言うところでJ型回腸嚢と吻合する回腸嚢肛門管吻合術が普及しつつあります。この方法であれば、1回で手術を終えることが可能です(1 期的手術)。当施設でも 1997 年より肛門管 に炎症がほとんどない場合や肛門機能が良好な患者さんに対しては本術式を導入し,現在までに約120 名の方に一期的手術を行っています。
引用:http://www.med.osaka-cu.ac.jp/surgical-oncology/img/kaiyouseidaicyou2.pdf
この方法では直腸の一部を残すことができるため、1日の排便回数も②の全結腸切除・直腸粘膜切除・回腸肛門吻合術と比べ少なくおさめることが可能となります。また引用文に書いていますが、手術の回数も1回で終えることが可能です。
ただし、デメリットとして直腸の一部を保存するためそこが将来的にまた炎症の原因となったり癌化してしまうリスクを背負うことになります。
④腹腔鏡手術
従来、潰瘍性大腸炎の手術ではみぞおちから下腹部まで約15〜20cmの縦切開が必要でした。腹腔鏡手術ではおなかに約1cm程度の穴を あけ、その穴からテレビカメラを挿入し、腹腔内をモニターに映します。モニターをみながら、さらに数カ所の穴をあけ、その穴から特殊なハサミや鉗子を挿入して手術を行います。
引用:http://www.med.osaka-cu.ac.jp/surgical-oncology/img/kaiyouseidaicyou2.pdf
この方法では切開手術のような大きな傷が体に残らないことがメリットとして挙げられます。そして傷が少ないため体への負担も少なく、比較的回復の早い手術方法であると言われています。
ただし、難易度の高い手術なこと、できる手術の範囲が限られていること、また手術時間が開腹手術では3〜4時間のものが腹腔鏡手術では7〜9時間かかることなどがデメリットとして挙げられます。
手術後の生活はどうなるか?
手術を受けるにあたって気になるのは、手術後の生活についてです。
手術後は以下のことが主に変わります。
- トイレは1日5〜6回ほどになる
- 食事制限がなくなる
- 腹痛がなくなる
- ステロイドから解放される
- メサラジン系の薬は継続する
以上のように変わります。
術後の生活についてはこちらの記事に詳しく書いてありますのでよろしかったらご覧ください。
まとめ
以上が大腸全摘手術のメリット・デメリットと手術方法になります。
今回の記事の内容を簡単にまとめてみます。
- 症状が悪化した場合や重篤な合併症が見つかったら手術を行う
- ステロイドの合計使用量が一定数値を超えたら手術を行う
- 生活の質が著しく落ちたら手術を行う
- 手術をすることで潰瘍性大腸炎の症状は改善し、ストレスからも解放される
- 手術を行うことのデメリットは排便回数が1日5〜6回ほど必要になること
- 手術の方法には4つの方法がある
以上となります。
大腸全摘手術によって症状が劇的に改善し、普通の人となんら変わりない生活を取り戻している方は大勢いらっしゃいます。
大腸を残したまま治療をつづけるのか、手術を行なっていち早く症状を改善するのか。どちらが良いかは一概には言えませんが、正しい知識を身につけて、自分の力で決断することが大切なのではないかと思います。
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